ガンについてのアレコレ

ガンってなぁに?

人の身体は60兆位の細胞で出来ています。これらは互いに「協調」をすることによって身体の機能を維持しています。60兆の協調社会です。各細胞はそれぞれに社会的責任を持ち、成長、分裂、分化、休止、死のプロセスをたどる事でヒトという身体の社会を制御しています。

しかし、毎日身体には何十億という細胞が「変異」をしており、それぞれがこの「協調社会」を崩壊させる危険性をはらんでいます。最も危険なパターンはこの協調社会を抜け出し、「俺の細胞だけが生き残るのだ!」という利己的な変異細胞が出現する事です。ガンとは変異細胞の集団が周囲の正常細胞を犠牲にすることによって繁殖し、ついには宿主を殺してしまう病気です。

人類がガンを克服する日はやってくる?

ガンというのは変異細胞から徐々に「進化」するものです。ヒトのガンは、数年〜数十年の期間に身体の細胞の一部で起きる現象ですが、これは生物が数十億年かけて辿ってきた「進化」と同じく、「変異と自然選択」という原理に従います。なので「ガンを克服する」とは「進化」の謎を完全に解き明かし、進化の全てを人類がコントロール出来なければなりません。本物の進化と異なる点は「ヒトという環境が極めて均一である」という事実です。ですのでこの環境で進化しやすい条件を封じ込めようというのが第一のステップになり、現在の所順調に克服に向かっております。

ガンって良性腫瘍とか、悪性腫瘍、悪性新生物とかって言うけど違い教えて!

良性腫瘍は周囲のの組織へ浸潤しないので、それだけを取り除けば完治する可能性のある「変異細胞集団」です。周囲の細胞へ浸潤する能力を得た時、悪性腫瘍と判断されガンとなります。「周囲の細胞へ浸潤する能力」とは俗に言う「転移」です。

悪性新生物というのは「変異細胞の進化」の様子を「新しい生物発生」とみなした概念なので腫瘍と同義語でいいと思います。

ガン保険を選ぶ時は必ずここをチェックしてください。保険屋さんは医学的用語とはまた違う「俗語」を大量に使って説明する故…

ガンの原因とはなんぞや!!!!

ガンの原因は「一個の変異細胞」由来と現在では考えられています。「変異」を正確に言うと「一つの遺伝子変異」となります。*1
正常な細胞と、腫瘍細胞を比べると確かに、DNAの塩基配列が変化しています。とはいえ一つ変異が入ったからぐらいじゃガンにはなりません。そりゃそうですよね。

ガンになるには変異を蓄積させる必要があります。なので蓄積する時間が増える高齢者はガンになりやすい訳です。現在分かってる範囲では、ガンになるためには最低5箇所〜20箇所程の変異の蓄積が必要になります。大抵のガンは100箇所以上に変異の蓄積を伴っているようです。どこでもいいわけではなく、限られた領域に集中して変異を蓄積しなければなりません。例え1万の変異が蓄積されても、見当違いな領域であればガンにはなりません。

だからその変異の原因だよ!

変異の原因因子は分かりません。多様に有り過ぎるからです。遺伝因子もあれば環境因子もあります。DNAの複製と修復に根本的に限界がある為、生存そのものが一つのガンの原因因子とも言えます。

実際ガンを見てみると、8割は上皮ガンです。上皮とは「肌」だったり、肝臓表面だったり、肺の表面だったりの事です。ヒトの場合、細胞分裂が活発なのは上皮組織ですし、科学的、物理的、生理的、環境的な様々な因子に最も頻繁に晒されるので変異しやすい条件が整ってるのでしょう。中学校の理科で習ったとおり、身体の中ではホメオスタシスといって環境を統一しようとする動きがあります。んでもって身体の中でも組織内部は最も環境が統一されているので組織内部からガンが進行する「肉腫」はレアケースです。

分かってる範囲でお願いします

現在分かってる環境因子はタバコの様な極端な例の他に僅かにしかありません。
しかしガンの種類について国をまたいで眺めると、ある国で多発する種類のガンが、別の国では少なかったりします。どうやら「地域特有、環境特有、文化特有のガン」というのがあるらしいです。どんなものがあるかと言えば…例えば「食塩」というのはある種の「発がん性物質」ではないか?と疑われています。そこら辺はこちらをご参照ください。面白いのは食塩よりも「シフト勤務」の方が発ガンへの関与が強いとか…働くって怖い。
IARC発がん性リスク一覧 - Wikipedia



環境因子はかなり発がんに関わっているようです。「究極的に環境因子を排除すればガンの80%程度は避けられるのではないか?」とまで言われております。まぁ言われているだけで実際はある因子を避けても、また別の因子に接近する事になるので夢物語なんですが。少なくとも僕は「究極的に環境因子を排除した生活」というのは送りたくない。

一貫して言えるのはある値以上にはガン発生率は下がらないだろうと。環境を理想的にしても、DNAの複製と修復能力に根本的に限界があるからです。

ガンを避ける方向に努力するよりもガンと上手く付き合う方法を模索するのが賢明であり、その上で人間としての幸福を追求すべきでしょう。

僕は食塩がタップリのお味噌汁をすするのは正義だと考えます。幸せに暮らした結果、ガンになったとしてもいいじゃない。ガンの苦しみなんて人生のほんの一瞬の出来事だぜ。人生の大半を幸せに暮らせる努力をすべきだよ

変異って身体の中でどれぐらい起こってる?

DNAの複製と修復の根本的限界の観点から見て、一生涯に個々の遺伝子に独立して生じる変異の回数は10の10乗回(10億回)程度だろうと予測されています。これは一回のDNA複製における変異率(10の−6乗)と、生涯のDNA複製回数(10の16乗回)から計算されています。*2

変異の原因はDNA複製時だけではありません。内面的な要因である生理的(タンパク質を作る等)活動により、ヒトのDNAは50万回もの変異を日常的に受け、それらを修復することで生存しています。これらも時には変異として残り、生涯を通じてどれほどの変異回数を重ねるのかは検討も付きません。

また外因的な要因である、放射線であったり、発がん因子もあります。これらについても同様ですね。

勿論変異回数はこれからの研究によって上下しますから、ここでは少なくない回数の変異が日常的に起こってると考えたほうがいいです。最初に述べた様に数十億の細胞が毎日変異している…それぐらいでいいと思います。

そんなに変異が起こってるなら何故ガンがここまで少ないんだよ?

不思議ですよね。
一つには多細胞生物はガンを抑える仕組みを何重にも複雑に備える必要があったからです。そうしなければ幼若期から多数の腫瘍ができスグに壊れてしまう。下図の緑の部分が現在分かってるガン因子です。外側から何十回も変異を繰り返さないとガンにまで辿りつけないことが分かると思います。

例えば最終形態のフリーザ様をがん細胞だとしましょう。「このフリーザ様は変身するたびに(発がん性としての)戦闘力がはるかに増す。そしてその変身をオレはあと20〜100回も残している。この意味がわかるな」えぇ、ガンになるまで凄い掛かるってことですよね。そんな感じです。



2つめは、幹細胞の不滅鎖説と呼ばれるものです。

皆さんもテレビで不老不死の話を聞いた事があると思います。人間は細胞分裂出来る回数が決められている…どうやらテロメラが細胞分裂回数を制限しているらしい。不老不死になるには唯一テロメラを回復出来るテロメラーゼの活性が重要だ」という趣旨の奴です。たしかクラゲが凄いんでしたっけ。この考え方、ガン発生にも使います。

身体の中でテロメラーゼ活性を唯一持っているのが幹細胞です。幹細胞だけが不老不死でそれ以外の細胞は死滅してしまう。という事は、殆どの細胞では変異が蓄積してガン化する前に死滅してしまう。つまりガン細胞になれるのは幹細胞だけなんです。変身を100回も残していると宣言されたフリーザ様ですが、寿命で死んでしまえば意味がありません。*3


3つめはヒトのDNAのウチ、タンパク質をコードしているのは2%程度だろうという事実です。現在分かってるガン遺伝子に限ってみれば、全体の0.01%程度。更に臓器によって遺伝子をON/OFFにして使い分けている事実を考えるともっと少なくなります。全く無関係な領域に変異がどれだけ蓄積しても無意味です。寿命があって、変身を100回も残していると宣言されたフリーザ様…変身が成功する確率は0.01%以下だそうです。




それ以外にも多くの理由があるでしょうが、今回はここまで。

一応これ確かなんだよな?

参考文献は分子生物学の教科書的な「THE CELL」から取り出しています。今回の画像も同じくTHE CELLから一部改変もしつつ(最後の奴)お送りしております


本当にありがとー

分子生物学の世界は5年経つと色々と変わりますが去年でたばかりなので、面白いですよ

細胞の分子生物学

細胞の分子生物学

次回またガンについて語ります。

*1:更に正確に言うと、DNAの塩基配列の変化によるものと、よらないもの(エピジェネティックス変化)に分かれ、どちらもガン発生に非常に大事な要素です。がここではDNAの塩基配列の変化によるものを中心に考えます。現在の所、DNAの塩基配列変化によらないガンは見つかってないのが理由です。

*2:ヒトのDNAは30億の塩基対からなっている為、一回辺り3000箇所で変異が起きると予想されますが、それは別の修復経路によって修復されると計算。しかしそれでも1つ位は変異があるんじゃない?という仮定のお話

*3:勿論、普通の細胞が「テロメラーゼ」を活性化させる変異を身につけ、幹細胞の様に振る舞うといった事例もある為、幹細胞に注目すればいいと言うわけでもありません。ポルンガに不老不死を頼んだ後ならばフリーザ様は最終形態までたどりつけるかもしれない…という事