企業愛

最近「飲みニケーション」のワードが良く目に付く。社内でのコミュニケーションを円滑にすることで社員同士の繋がりを深くし、より積極的に仕事に打ち込める様にする為だとか。上司と部下が気楽に飲める環境を構築するために「社内飲み」なる場を社内に新たに設けた所もあるそうな。

その理由は飲む口実のため…という浅はかなものではなく失った「企業愛」を育むためなのだそうだ。「日本の企業愛が失われつつある」というのは多くの企業で感じている事であり、その事に危機感を抱いている状況だからこうした施策が脚光を浴びているのだ。



じゃあさ、根本的な話「企業愛」って何よって話です。

夏になったとはいえ夕方の風は気持ちいい

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そもそも上にも上げた要素である「社員の絆」やら「コミュニケーション」をより深めればその延長線上に企業愛は生まれるのか?「社員同士で娯楽を統一」すればその延長線上に企業愛が生まれるのか?


…と言えばそれは絶対にない。
そんなもので企業愛が決まるのであれば今も昔も大きな差はない。そこに人がいれば絶対にコミュニケーションはとるし、そこで流行りの娯楽があればその娯楽をやろうとするのは人間の性だ。飲み会じゃなきゃコミュを取れないわけでも、絆を深められない訳でもない。そして一番大切な事だが「プロジェクトが成功するかどうかは社内の円滑なコミュニケーションに掛かっている」という事は昔から十分に理解されている。昔も今も会社は人間関係、コミュニケーション関係に常に気を配ってきた。ここ十数年間、人事は「コミュニケーション能力」の大切さを就活生に問いて回っているではないか。十数年間気を配ってきたという事は昔と今で「社員の絆」やら「コミュニケーション」の深さが大きく変わるという事はありえないのだ。

そうした十数年間の施策にも関わらず企業愛が失われたと感じるならば、それはコミュニケーションとは別の要素が失われたと推測するのは容易い。ここ十数年で次第に失われたモノは何か



それは「家族愛」じゃないかと思うのです。家族愛とは、自分の家族を大切に思う気持ち、そしてそれを支援する周りの気遣いを指します。社員を大切にする気持ちは昔も今も変わらないが、今どきの企業は家族を大切にする気持ちがなくなった、もっと言えば家族を蔑ろにしているんじゃないかと思うのです。


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なぜ家族愛を蔑ろにすることが、企業愛の損失につながるのか。

「家族」と「仕事」であれば家族をより大切に思うのが一般的です。会社が「お前の家族邪魔だから離婚して、仕事に集中しろよ」と言われたら訴訟モノですよね。逆に「仕事が邪魔だから辞めて、家族に集中しよう」は極めて普通な判断と見て良いでしょう。個人がどう思おうが社会認知としては家族>>仕事なのです。

そういった社会認知の中「家族愛」を阻害したらどういう事になるのか。自分にとって大切な家族が蔑ろにされるという状況は誰にとっても嫌でしょう。そういう職場で一生懸命働こうとするでしょうか?仕事に精を出せば出すほど家族との仲が悪くなるのであれば、いくら職場の仲間に恵まれようとも今まで以上に頑張ろうという気持ちは湧いて来るはずがありません。残業しまくりでいつの間にか、離婚して子供に会えなくなった…とか笑えません。


では家族愛を育む場合、本当に「企業愛」は生まれるのか?


自分が一番大切にしているもの、それを周りが褒めてくれる状況を想像して下さい。それで嫌だという感情が芽生えるでしょうか?芽生えませんよね。それを褒めるどころか、奨励してくれたらどうでしょうか。奨励してくれた人に恩返ししようという気持ちが芽生えるのは普通では無いでしょうか。こういった意識の中から「企業愛」が生まれてくるのではないでしょうか。一番大切なモノ…それは先に上げた通り「家族」でしょう。


「家族を守ってくれる企業の為に頑張ろう」これが企業愛の正体だと思うのです。勿論、今の世の中未婚で家族を持たない人も大勢いますから、そういった人では、「その人が一番大切にしている事」を奨励すれば同じような効果が期待できるでしょう。特に未婚の方が一番大切なモノっていうのは多種多様ですから、そういった事を理解せずに飲みニケーションを奨励しても効果が無いどころか逆効果にすらなりえます。「大切なモノ」と「仕事」の関係に社員同士の仲とか「円滑なコミュニケーション」等は関係しない…というのもお分かりいただけるかと思います。

まとめると今の時代の会社は「自分の家族」「自分の大切なモノ」を守ってくれる存在として認知されなくなってきた。だから企業愛も薄れてきたのではないでしょうか。


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私のイメージでは「飲みニケーション」とは「居酒屋で社員同士がワイワイする」ではないんですよ。「上司が部下の家に上がり込んで一杯やる」とか「上司が部下を家に招いて一杯やる」とかそんなイメージなのです。丁度「サザエさん」でよくあるシーンですね。あの丸いテーブルを囲ってサザエと部下が下らない話をしながらビールを注いで笑ってる…とかそんなイメージなのです。相手の家の中で相手の家族と飲むって古典的ながら最強の「貴方の家族を大切に思ってますよ」アピールだと思うのです。

そういった施策は増えているんですかね?

それとも冠婚葬祭を蔑ろにして「社内仲間で飲みニケーション」ですか?
理不尽な残業を強制して社員の自由時間を減らし、社員との繋がりをより深くするんですか?

アホらし