なぜモダンUIは誕生したのか

Windows8で一番話題になり易いのがモダンUIだろう。このUIはボタンの境界がはっきりしないなど不満の声が多い。素人目から見ると普通のWindows7のUIでも良かったんじゃないのかと思ってしまう。しかし世界のMicrosoft社が社運を賭けて投入した製品であり、「このUIにせざるを得なかった理由」が幾つもあるに違いない。

という事で今日はモダンUI誕生の理由について考察しよう。

★★★★

Windows8を一度でも見れば「Microsoftはパソコンとタブレット端末の統一を狙ってる」という事は明らかである。言葉にすればただの一言ですむこの「統一」だが実際はかなり難儀する仕事の筈だ。なぜならばタブレット端末の性能はノートパソコンよりも遥かに低い為である。

iOS登場以来、「快適なアニメーション動作」というのはタブレットスマホ等のモバイル端末に課せられた使命であり、当然の様にMicrosoftもアニメーションを追求したOSを模索しなければならない。だが如何せん、現在の技術、性能で出来るタブレットでは従来型のUIは到底耐えられない。

例えばWindows7に搭載されているAero機能だ。これは簡単に言えばウインドウの半透明化である。半透明化と言えば格好良い響きだが、これをアニメーションさせようとすると1フレーム毎に背景との合成処理が入り動作をカクカクさせる原因になる。更にウインドウの枠に付く「影」の処理である。これもまたアニメーションさせようとすると1フレーム毎に合成処理が入り「PCが重い」といった症状を生み出す原因になる。
以上の指摘はWindows7パフォーマンス向上術としてWindows関連本に必ずといっていい程書かれている事で、半透明化や影の処理というのはタブレット端末よりも遥かに高性能である筈のノートパソコンでさえ悲鳴を上げる処理である。ただ我々はウインドウを頻繁に動かす機会に恵まれなかったから気にしなかっただけである。

★★★

これらの処理をモバイル端末で行うとどういった事になるだろうか?
丁度AppleDeveloper登録し実機で幾らでもテスト可能なiPhone5が手元にある。これを従来型のUI再現した場合のアニメーションを実践しよう。OSは違えどiPhone5基本性能は高水準であり、これ以下の性能のタブレット端末は幾らでもある。iPhone5でカクカク動作なら現在発売されているWindowsタブレットは使い物にならい程カクカクするだろう。

まず初めにiPhone5の滑らかなアニメーションを実現しているフレームレートを知ろう。ホーム画面の動きやリマインダーの動きSafariの動きを追跡したグラフか下記である。これを見るとiPhoneの滑らかなアニメーションは基本的に50〜60程度のフレームレートによって実現している事が分かる。

次に次のような実験アプリを制作した。
半透明化したウインドウを3枚重ね、それぞれに影を付けて上下関係を分かりやすくしただけの単純なアプリである。これをホーム画面の様にスワイプ動作で画面を切り替えるだけである。何も難しい事はしていない。ただ透明化処理と影を加えた時の挙動を見るだけである。


これのフレームレートを追跡したグラフが下記グラフである。30フレームレートも出ておらず20〜23程度の数値にまで低下している。体感としても確かにつっかかりあるアニメーションであり快適な動作には程遠い印象を受ける。この様に影処理、透明処理はタブレットスマホの性能では未だに重労働であり相当にパフォーマンスが低下する処理である。勿論、この実験アプリも透明化、影処理を除けば50〜59fpsまで数値が上昇し快適なアニメーションになる。

★★★★

つまり現在のタブレット性能、スマホ性能事情でWindows8の様に「どんな機種にも載るようなOS」を開発する場合「影処理や透明化処理は使わない方向でいくしか無い」という結論に至る訳である。

Windows8に搭載されているモダンUI、及びデスクトップのウインドウを見てみよう。確かにWindows8では半透明化処理や影の処理はカットされている。Windows8のモダンUIは単色であり複雑な描写を必要としないが、これもタブレット端末の性能にとって優しい仕様である。透明化処理や影処理はWindowsVistaの時代から存在するがWindows8にはそれがない(デフォルトでOFFになっている)。これらの変更は低性能なタブレット端末に合わせてOSを再構築した故の代償と言える。


今回のWindows8はパソコンとタブレット端末の統一を目指した。従ってMicrosoftが考えなければならない動作保証の性能下限はWindows7以上に低くなって当然である。とは言え、AppleGoogleが「モバイル向けに最適化したが故に出来るリッチなOS」を開発している最中にWindowsXp時代にまで見た目にまで逆戻りさせてしまうことは出来ない。Microsoftは性能に頼らない新たな視聴効果を開発しなければならない状況に陥った訳で、その中で出した答えが単色単調なモダンUIなのではなかろうか。

結果は不評である。