なぜ日本社会は超高学歴を雇わないのか

つい先日、この様な記事を見つけた。
一度レールを外れるとバイトにすら就けない!高学歴ワーキングプアの抜け出せない苦しい現実|男の健康|ダイヤモンド・オンライン


こういった記事を見るたびに「何で日本社会では超高学歴を会社で活かせないのか?」という疑問が頭に残る。一体、何故超高学歴は就職し難いのだろうか?

日本には大卒→就職→定年という、“安定コース”といわれる定番の型がありこれを外れると安定した人生を送れなくなるという話はよく聞く。従って「日本社会は超高学歴を活かせない」という疑問解決には「なぜ安定コースは成立するのか」「何故安定コース以外は成立しないのか」という2つを証明すれば良い。

ここでは「予算がない」や「会社の人件費削減の為」という回答はしない。何故ならば例えそれらの課題が解決されたとしても、「結局、超高学歴は雇えない」日本社会の構造的な問題に焦点を当てる為である。

PDCAサイクルで図られる優秀な人材

まず「優秀な人材」とはどの様な傾向を示すだろうか。会社は優秀な人材を欲しがり、また会社はその能力を十二分に発揮させようとするのは世の常である。従って「優秀な人材」の定義は非常に大切である。

ここでは「計画を立て、実行し、結果をデータ化して活用し、次回より良い結果になるように行動する」というのを優秀な人材の定義とする。いわばPDCAサイクルだ。就活していれば誰もが耳にする言葉だが、逆に言えばそれがそのまま優秀な人材の定義だと社会が信じている証拠である。

情報社会といわれる今日、与えられたデータを分析し、改善策を練る能力というのはあらゆる業種で必要とされる能力であり、それは人事という仕事でも通じる。逆にPDCAサイクルに違反する行為は「与えられたデータを分析できない」独善的な行動であり、会社の将来を危うくする行為である。とりわけ社内環境を一端に担う仕事内容である人事は人材的な能力は勿論、組織の形としてもPDCAサイクルを十二分に発揮できる環境を整える事が求められている。

PDCAサイクルの条件

優秀な人材ほど実行力は勿論、データ分析が得意な事を我々は知っている。PDCAサイクルで言えば「C」の部分に当たる。
データを見比べる際に最も重要な事は「データの一貫性」である。例えば、去年「コミュニケーション能力」をテーマにして人材採用したとする。今年は一転して「体力」をテーマとした場合、昨年実行したコミュニケーション能力採用の課題、分析等のデータは使い物にならない。これはニワトリとダチョウを見比べる様なもので、ニワトリの常識をダチョウに適応しようとせず一端常識をリセットしてダチョウに対処した方が良いという話と同じである。

従ってPDCAサイクルを忠実に実行するためには、過去のデータをうまく応用できる様に一貫性ある採用テーマを掲げる必要がある。この要求に人事はキッチリ答えて行動している様で、8年連続で一貫したテーマを策定して人材獲得に望んでいる。日本の人事は非常に優秀なのだ。

8年連続で新卒採用時に重視する要素、第1位に!企業が求める真の「コミュニケーション能力」とは|ザ・世論~日本人の気持ち~|ダイヤモンド・オンライン


データを見比べる際にもう一つ重要な事がある。「データ取得時期」だ。
10年前と今日では社会の様子が随分違う。従って同じテーマで採用に挑んだとしても直近のデータが10年前だとしたらそのデータは使い物にならない。より良いデータというのは常に「最新」「最前線」が一番だという事を優秀な人材ほど実感している。優秀な人材は常に入手できるデータが最前で、それが将来活用データかどうかを気にしながら仕事に励んでいる筈である。

以上の事をグラフにすると下記の様になる。
データを分析する上で至極当然のグラフだ。

まとめると
「一貫性あるデータ」で「最新のデータ」である事がPDCAサイクルに則ったより価値の高い提案をする為の条件である。

データ収集に理想的な対象

より価値の高いデータをより効率的に収集する事も優秀な人材の条件である。
日本においてより価値の高い採用データを取得するには一体どの様な集団を対象にして調査をするのが好ましいであろうか?

いうまでも無く、大学生である。現在の日本で大学生ほど「一貫性ある採用活動」をする集団は存在しない。卒業時期や就活時期が程んど一定しており、来年、再来年に渡って活用出来るデータである。また現代は大学全入時代でありかなりの数の大学生がいる為、少ない予算でも「一貫性あるデータ」「最新のデータ」を入手する事は容易でコストもかからない。ここを狙うのは優秀な人事ならば当然の話で最も合理的な選択である。


反対に大学院生以上の超高学歴はデータ収集という意味で美味しくない。研究の内容、進行度によって就活する時期が異なる為、一貫性あるデータを取ることが難しい。また大学院生以上は圧倒的に少ない人数しかいない為、今年入手したデータが来年も使えるかどうかが疑わしい。少数の大学院生を相手にするなら大人数いるフリーターを相手にした方が遥かにデーター収集価値があるのが現実だ。母集団が少なければ少ないほど「一貫性あるデータ」「最新のデータ」を取ることは困難であるが、超高学歴集団は正にその模範例だろう。

PDCAサイクルを活用した魅力的な提案

優秀な人材は、会社により良い提案をし、会社に貢献するものである。PDCAサイクルで言えば「A」に当たる。
PDCAサイクルを通して、大学生から詳細な採用データを入手した。このデータを分析し、改善、改良した「来年度採用計画」は会社にとって大いに喜ばしいものである。何故ならば今年浮かび上がってきたリスクがなくなり、より確実に優秀な人材を見つけ出す事が可能になるからである。データが豊富にあればあるほど採用実績から人事の優秀性を証明する事も容易くなるし、他人に説得する事も容易になる。人事もこの様な提案が出来る事を誇りに思うに違いない。


一方で超高学歴集団は逆境に立たされる。PDCAサイクルを機能させる為に必要なデータが存在しない為である。データがないという事はリスク評価をする事が出来ないし、他人に説得するのも困難である。またデータがないという事は超高学歴が優秀な人材だったとしても、それは人事の優秀故の産物なのか、単なる偶然なのか誰にも分からない。


貴方が上司だとしてどちらの採用計画を受け入れるだろうか?

  • データに基づく分析からリスクをより減らし、より確実に優秀な人材を取得できる採用計画
  • データがなくリスク評価が出来ない。何が起こるか分からないし、優秀な人材である保障もない採用計画

これがPDCAサイクルに基づく提案とそうでない提案の差異である。

貴方が人事だとして大学生、超高学歴のどちらを採用するだろうか?当然、大学生である。貴方の優秀性を証明出来るのはPDCAサイクルに則った活動であり、「来年より良い採用活動を」と志すならば情報が取得しやすく応用が効きやすい大学生を相手にするのが最も合理的なのだ。反対に貴方が超高学歴を採用し、超高学歴ならではの問題点に一生懸命に対処しても来年には使い物にならない経験値とみなされるのがオチである。それは貴方の優秀性を証明出来ない事を意味する。


人事は非常に優秀であるが故に「超高学歴を雇わない」という選択をしている訳である。

結論

冒頭で
「日本社会は超高学歴を活かせない」という疑問解決には「なぜ安定コースは成立するのか」「何故安定コース以外は成立しないのか」という2つを証明すれば良い。
といった。ここで結論を出そう。


「なぜ安定コースは成立するのか」

  • PDCAサイクルに基づく採用計画を提案するには大学生を相手に採用活動するのが最も合理的な選択だから。
  • それに対抗できるデータ取得機会が存在しない為必然的に大学生のみに重点を置いた採用活動になる。

「何故安定コース以外は成立しないのか」

  • 大学生を相手に採用活動するのが最も合理的な選択だから。
  • それ以外の方法での採用活動は相対的にリスクが高く、会社はそのリスクを許容出来ない。
  • 人事としても自分の優秀性を証明する必要があり、それには大学生採用が最適